マスコンクリートの温度応力解析とは

  • 技術ブログ

2025.12.9

  • 建築分野
  • 土木分野

断面寸法の大きいコンクリート部材*¹においては、セメントの水和熱に起因する“温度ひび割れ”の発生リスクが高くなります。そのため、設計段階や施工前といったタイミングで温度応力解析を行い、事前に温度ひび割れのリスクを正しく評価し、適切な対策を施すことが重要です。

本記事では、温度ひび割れの概要、温度応力解析の手順および解析結果に基づいたひび割れ制御対策について説明します。

*1 : マスコンクリートとして取り扱う部材寸法の目安は、広がりのあるスラブで厚さ80cm以上、下端の拘束された壁状構造物で厚さ50cm以上とされています。1)2)

1. 温度ひび割れの発生メカニズム

温度ひび割れとは、温度変化に伴うコンクリートの体積変化が拘束されることで生じるひび割れのことです。温度ひび割れの発生メカニズムは、大きく“内部拘束”によるものと“外部拘束”によるものの2つに大別されます。

内部拘束

部材厚の大きいマスコンクリートでは、材齢初期(温度上昇期)に内部と表面で大きな温度差が生じるため、膨張しようとする内部が、収縮しようとする表面部を引っ張る形となります。その結果、表面に引張応力、内部に圧縮応力が発生します。

図. 内部拘束によるひび割れ発生メカニズム

外部拘束

打込み後、コンクリートの温度が降下し収縮する際に、地盤や既設コンクリートといった拘束体に拘束されると、部材断面に引張応力が生じます。

図. 外部拘束によるひび割れ発生メカニズム

両者の違いとして、一般に内部拘束によるひび割れは”表面ひび割れ”、外部拘束によるひび割れは”貫通ひび割れ”になることが多いとされています。そのため、温度ひび割れの検証を行う場合は、主に外部拘束によるひび割れについて検証します。

2. 温度応力解析の流れ

温度ひび割れが懸念されるコンクリート構造物の照査方法として、有限要素法(FEM)を用いた3次元の温度応力解析が広く用いられています。ここでは、温度応力解析専用ソフトであるASTEA MACSを使用して、温度応力解析を行う際の流れを説明します。

STEP 0:照査目標の設定

準拠基準に従い、目標とするひび割れ発生確率(に関する安全係数)やひび割れ幅の限界値などを設定します。

STEP 1:メッシュ(要素)の作成

検討対象とする構造物の範囲を定め、形状モデルをメッシュで作成します。

STEP 2:解析条件の設定

配(調)合をもとに、セメント種類、単位セメント量、W/C等の物性値を入力します。また、養生や型枠種類に応じた熱伝達境界の設定、拘束条件の設定、リフトスケジュールの設定などもあわせて行います。

なお、ASTEA MACSでは以下の準拠基準に対応した推定式を用いて計算を実施することが出来ます。

  • コンクリート標準示方書[設計編] (土木学会)
  • マスコンクリートのひび割れ制御指針 (日本コンクリート工学会)
  • マスコンクリートの温度ひび割れ制御設計・施工指針・同解説 (日本建築学会)

STEP 3:解析実行

入力された解析条件をもとに、温度解析および応力解析を実施します。

STEP 4:解析結果の確認

解析結果として出力された温度、応力、(温度)ひび割れ指数*²(建築学会マスコン指針の場合は、応力強度比*³)を確認します。ひび割れ幅を確認する場合は、解析で得られた最小ひび割れ指数を用いて、各指針や示方書に掲載のひび割れ幅算定式より算定します。

検討期間内における最小ひび割れ指数(最大応力強度比)や最大ひび割れ幅を確認し、照査目標を満足していた場合は解析終了となります。目標を満足しなかった場合は、ひび割れ対策を施した条件で再度解析を実施し、目標を満足するまで繰り返し検討を行います。

図.温度等高線図

図.応力等高線図

図.(温度)ひび割れ指数*²等高線図

図.応力強度比*³等高線図

*2 : (温度)ひび割れ指数 … 構造物中のコンクリートの引張強度と引張応力の比 (引張強度/引張応力)
○ コンクリート標準示方書の場合、最小ひび割れ指数が照査目標する安全係数以上となれば合格となります。1)
○ マスコンクリートのひび割れ制御指針の場合、最小ひび割れ指数を用いてひび割れ発生確率を計算し、その予測値がひび割れ発生確率の限界値以下であれば合格となります。2)

*3 : 応力強度比 … コンクリートの温度応力と温度ひび割れ発生強度の比 (引張応力/引張強度)
○ マスコンクリートの温度ひび割れ制御設計・施工指針・同解説の場合、応力強度比を設計値以下とすることを標準とします。3)

3. 解析結果に基づくひび割れ制御対策

温度応力解析の結果、照査目標を満足しなかった場合は対策案の検討が必要となります。以下に代表的な対策例を示します。

  • 低発熱型セメントの採用: 中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントなどを用い、水和熱そのものを低減します。
  • ひび割れ誘発目地: ひび割れ誘発目地を設置し、壁部材に生じる応力を緩和します。

(a) 普通セメント使用(標準ケース)

(b) 中庸熱セメント使用

(c) 低熱セメント使用

(d) ひび割れ誘発目地考慮

図 解析結果の比較((温度)ひび割れ指数)

その他にも、“単位セメント量の低減”、“膨張材の添加”、“石灰石骨材の使用”、”パイプクーリング”、”養生方法の変更”、“打込み時期の変更”、“補強鉄筋の増加”など、さまざまな対策があり、これらを単独または併用して用いることで、照査目標を満足することを目指します。

[参考文献]
1) 土木学会 : 2022年制定コンクリート標準示方書[設計編]
2) 日本コンクリート工学会 : マスコンクリートのひび割れ制御指針2025
3) 日本建築学会 : マスコンクリートの温度ひび割れ制御設計・施工指針・同解説